検査・診断・治療・フォロー
概要
- 神経障害とは
- 診断・検査
- 治療・フォロー
- 薬物治療(タリージェ、リリカについて)
- 参考文献
1.神経障害疼痛とは
「末梢神経から大脳に至るまでの侵害情報伝達経路上に生じた病変や疾患によって、末梢神経末端の侵害受容器の興奮がなくても神経伝達経路上に発火・応答が発現する」(神経障害の定義)
「体性感覚神経系の病変や疾患によって直接的に引きおこされる疼痛」(神経障害性疼痛の病態)
神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン 改定第2版より
神経障害性疼痛とは、単一の疾患を指すものではなく、複数の発症機序を基盤として様々な症状や徴候によって構成される「症候群」である。
全身に隈なく分布する末梢神経が障害されることによって、それが手足の「痛み」や「しびれ」といった症状として表出します。
【末梢性神経障害性痛の問題点】
①痛い
②難治性である
③診断・治療が難しい
④仕事や日常生活に支障が出る
⑤長期化して医療費がかかる
神経障害性痛は苦しく数日で消失するものではなく、長期間持続します。
明確な診断がなされないことが多く、たとえ神経障害性痛と診断されたとしても難治性で一般的治療に対する反応に乏しいことが多く、これによってADLやQOLの低下をもたらすことがあります。
EQ-5Dでは、「平均的な神経障害性痛患者のEQ-5Dは0.4~0.6、重症神経障害性痛患者のEQ-5Dは0.2」とされています。
EQ-5D 0.4~0.5は「終末期がん患者が痛みとは無関係に倦怠感等から日常生活を床上で過ごしているQOLのレベル」であり、EQ-5D 0.2は「心筋梗塞患者が絶対安静状態で生活しているQOLのレベル」に等しいとも言われています。
(EuroQol 5 Dimension:ヨーロッパで標準的に用いられているQOLの尺度。「0」を死亡した状態、「1」を健康な状態として0~1の間の数字であらわすもの)
JSPCによると、本邦では神経障害性痛の保有率は6.4%で成人人口換算では600万人とのデータが示されており、この人たちがしびれや痛みによって働けないことによる経済的損失と個人の負担する医療費、国が負担する医療費は莫大なものとなっていることが推測されます。
2.診断・検査
主に、国際疼痛学会による診断のためのアルゴリズムに従います。
評価・検査において、以下のA・B両方ともが当てはまる場合を確定診断として、一方のみ当てはまる場合は一部要素を持っているとして診断します。
A:障害神経の解剖学的神経支配に一致した領域に観察される感覚障害の他覚的所見
B:神経障害性疼痛を説明する神経損傷あるいは疾患を診断する検査
A:所見
触覚や痛覚などの評価で知覚低下・痛覚過敏・アロディニアなどの有無を検索する。
痛みの範囲が神経解剖学的に妥当なのか、体性感覚神経系を障害する病変や疾患があることを示唆する病歴があれば、神経障害性痛の可能性があると判断する。
患者の自覚症状についての神経障害性痛スクリーニングツールとしては、日本ペインクリニック学会で開発された以下のような問診表を用いる。
7項目の質問に5段階評価(0~4点)で回答するもので、カットオフ値9点として、神経障害性痛をスクリーニングできるとされている。
B:検査
画像検査(MRI・CT)、神経生理学的検査(神経伝導検査など)を行う。必要に応じて、血液検査や尿検査なども行う。
感染症、膠原病、神経変性疾患、腫瘍性疾患などの鑑別が重要。
ただし、神経障害性疼痛は原因部位の特定が困難である場合もあり、最終的には総合的な臨床的診断力が求められる。
3.治療・フォロー
末梢神経障害の治療目標は2つ。
①痛みの緩和
②ADLとQOLの改善
末梢神経障害は多くの場合、原因が取り除かれても完全治癒は稀。
よって、現在の治療は、完全治癒を目標とするものではなく、
「痛みを軽減しADL・QOLを改善し、より有意義な日常生活を送ること」
を目標として、患者状態をフォローしていく。
治療の方法としては、それぞれ以下が挙げられる。
①痛みの緩和:薬物療法、神経ブロック、脊髄刺激療法など
②ADLとQOLの改善:リハビリテーションなど
4.薬物治療
末梢神経障害性疼痛で用いる薬剤の薬物治療アルゴリズムが以下です。
その中でも第1選択として使用されるのが、ガバペン(一般名:ガバペンチン)、リリカ(一般名:プレガバリン)、タリージェ(一般名:ミロガバリン)という「Caチャネルα2δリガンド」に分類される薬剤です。
【痛みが起こる機序】
カルシウムイオン(Ca2+)チャネルから流入した Ca2+により神経が興奮し、サブスタンスP、グルタミン酸、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)などの神経伝達物質が過剰に放出されることが原因とされる一説があります。
【「Caチャネルα2δリガンド」の中でも末梢性神経障害性疼痛に対してリリカ、タリージェが主に選択される理由】
※抗てんかん薬でもあるガバペンチンは、非線形の薬物動態を示すため血中濃度を安定させることが面倒。
それに比べてリリカやタリージェは、線形の薬物動態を示すため、比較的血中濃度も安定しており、ガバペンチンと比べてCaチャネルα2δサブユニットへの親和性が高いため、より少量での投与で鎮痛効果が期待できます。つまり、余分な中枢作用がないため、より副作用が起きにくい特徴があります。
【リリカ、タリージェが鎮痛作用を発揮する作用機序】
リリカ、タリージェはこの Ca2+チャネルの「α2δサブユニット」との高い結合親和性を介して、カルシウムチャネルの細胞表面での発現量とシナプス末端へのCa2+の流入を低下させて、興奮性神経伝達物質の放出を抑制します。こうして、過剰興奮したニューロンを鎮めることで、鎮静・鎮痛作用を発揮します。
プレガバリンの鎮痛作用には一部、下行性疼痛調節系のノルアドレナリン経路及びセロトニン経路に対する作用も関与しているとも言われています。
【リリカ、タリージェの比較】
まずは、ざっくり比較したものがこちらです。
【リリカ・タリージェの違い① ~適応~】
タリージェは「末梢性神経障害性疼痛」のみの適応です。
はじめはリリカもそうでしたが、中枢性神経障害性疼痛の代表的疾患である脊髄損傷後疼痛を対象とした国際共同臨床試験で有効性が認められたため、いまでは「神経障害性疼痛」としての広い適応と「線維筋痛症に伴う疼痛」の適応も取得しています。
ただしこれは、リリカが2010年承認なのに対して、タリージェが2019年承認の比較的新しい薬剤であることが1つの要因であると思われるため、今後はタリージェも徐々に適応拡大されていくものと考えられます。
実際、今年の5月にはタリージェも「中枢神経障害性疼痛」への追加承認申請を行っていて有効性も認められているため、2022年には使えるようになるものと思われます。
【リリカ・タリージェの違い② ~副作用の発現頻度~】
タリージェでは、副作用発現率がリリカの半数以下と言われています。
これは、作用機序の細かな違いによるものです。
リリカよりも新薬であるタリージェは、リリカに対する優位性としてこの「作用機序」の部分がメリットのある部分とされています。
リリカとタリージェの作用部位である「Caチャネルα2δユニット」には、
「α2δ-1 サブユニット」と「α2δ-2 サブユニット」のサブタイプが存在しています。
このうち「α2δ-1 サブユニット」が鎮痛効果に作用しており、「α2δ-2 サブユニット」が副作用の発現に関わるものといわれています。
リリカは、このどちらのサブタイプにも同じ時間作用するのに対して、タリージェは副作用に関わるサブタイプには短く、鎮痛に関わるサブタイプにはより長く結合するため、「副作用がより少なく、鎮痛効果が長く持続する」といわれています。
【リリカ・タリージェの違い③ ~剤型~】
タリージェには錠剤しかありませんが、リリカにはカプセルとOD錠があります。
OD錠は、誤嚥性肺炎の既往のあるような嚥下障害のある患者さんなどには向いている薬剤です。口に入れるだけで溶けて、飲み込む必要がありません。OD錠は、アフリカの子どもたちが水なしでも飲めるように作られているほどのレベルです。
よって、嚥下機能が落ちている患者にはリリカが適しています。
【リリカ・タリージェの違い④ ~薬価~】
適応のところでお話したように、タリージェは新薬であるためまだ薬価が高い薬剤です。
それと比較して、リリカはすでに後発医薬品(ジェネリック医薬品)が発売されているため、より薬価も安くなっています。
通常成人の維持用量まで使っている場合だと、1ヶ月あたり約5500円の差があります。
よって、医療経済的なコストパフォーマンスはリリカのほうがよい、ということになります。先発同士の比較だと大きな差はありません。
【リリカ・タリージェに共通する注意事項】
<効果発現の用量>
以下は、リリカの臨床試験結果から抜粋しています。
全用量で1週目から疼痛改善効果がみられていますが、初期用量の継続だと、2週目までしか効果がみられていません。
それと比べて、維持用量の300mg以上に増量した群だと、全期間を通しての疼痛改善効果がみられます。
このことから、認容性のある患者に対しては「しっかり維持用量まで増量」することが重要だと考えられます。
<副作用>
①
興奮性神経伝達物質の放出抑制を作用機序とするため、傾眠やめまいといった副作用が起きやすいです。
その他にも体重増加や、視覚異常などの副作用があることにもあらかじめ伝えておく必要があります。
②
これら2剤の投与を開始する場合には、少なくとも1週間以上かけて徐々に増量する必要があります。これは、飲み始めに先述したような副作用が出やすいためです。
ただ、めまいや傾眠といった副作用は3日~7日ほどで耐性が形成されると言われているので、あらかじめ患者には副作用の可能性と自己中断のリスクについては注意喚起が必要です。
③
同様に、中止をする際にも1週間以上かけて徐々に減量する必要があります。これは、今まで抑制されていた興奮性神経伝達物質が過剰分泌されることで、離脱症状が現れる可能性があるためといわれています。
④
また、これら2剤は腎機能が低下している患者への投与に注意をする必要がある薬剤になります。
主に未変化体が尿中に排泄されるため、腎機能低下患者では血漿中濃度が高くなり、副作用が発現しやすくなる恐れがあります。
これに関してはクレアチニン・クリアランス値に応じた用量設定がされているため、それに応じた投与設計をする必要があります。
2剤とも透析患者でも使用可能です。ただし、リリカは透析除去率が50%を超えているため、定時の内服に加えて、透析後の補充投与が必要になりますので注意が必要です。
リリカの腎機能に応じた用量調節
タリージェの腎機能に応じた用量調節